2011年8月13日土曜日

人件費の削減を目的としたシステム化は失敗する。

システム屋として、本当にこんなことを書いていいのかどうか躊躇していますが、バーチャル師匠である神田昌典さんからタブーに挑戦せよ!っという指示を発しておられることですし、自分もプチタブーに触れてみたいと思います。

そのタブーは、人件費の削減を目的としたシステム化は失敗するというプチタブーです。
厳密に言うと、失敗する可能性が極めて高いということですね。

こんなことを書くと、これまで人件費の削減を「殺し文句」にいくつかのシステムを企画してきた人間としては、ともすれば「あんたの商売、サギじゃん。」と言われてそうです・・・

しかし、提案したときは本当に削減できると信じて提案をしていたので、詐欺じゃないですよ。っと先に弁解しておきます(笑)

そして、今後は、これから書くことをクライアントさんに説明した上で、システム化の企画・提案をしていくことを宣言しておきます。

さらに、数多のシステム屋がこれから書くことを知らないまま、システム化の提案をしているということを、企業の情シス担当者、そして経営者は、よく理解しておいてくださいというメッセージも込めています。

すいません。
前置きが長くなりました。
それでは始めます。

企業でシステム導入をする際、開発費の社内承認を得るのに稟議書を起案して、ぺたぺたをハンコを押してもらい、決裁印が押されて初めてプロジェクトのおさいふにお金がチャリンと入る。

どこの企業でも、大よそこの儀式は行われていると思います。

そしてその稟議書に書かれている、もしくは添付資料に書かれているのが「投資対効果」。

大雑把にいうと、「このシステムは、開発費用に1000万かかるけど、導入効果として、3年で1500万円のコスト削減効果があるので、作ったほうがお得ですよ。」といったシナリオで投資対効果の説明が書かれることがほとんどだと思います。

そして、この削減効果の最も着目される点が「人件費」。

何故なら多くの経営者が、今一番削りたいのは何よりも「人件費」だから。
なので、稟議書に書く削減効果として、「人件費がxxx万円減りますよ。」というのは、経営者に対してのキラーワードなのです。

しかし、ここでセントラルクエスチョンを。
本当にシステム化によって人件費は下がるのでしょうか?
これはYesでもあり、Noでもあります。

まずはYesのパターン。

例えば、パートさんや派遣さん等の一時雇用者の方が従事していた仕事をシステム化することによって、これまで5人の一時雇用者でしていた仕事を2名でできるようになりました。だから、3人分の雇用契約を解除することによってその分の人件費が浮きました。

こういったケースはあると思います。
システム化によって人件費が削減できるYesのパターンですね。

しかし、「人件費がxxx万円減りますよ。」の人件費が、一般的に言われる永久雇用を前提とした従業員さんの「残業時間の削減」となった場合、これが実現するのは極めて難しいというのが、これまでの経験から言えます。

こちらがNoのパターン。

では、なぜ永久雇用を前提とした従業員さんの残業時間を減らすのが難しいのでしょうか。

これは、脳と心の仕組みを理解することで、「なるほど。人間ってこういう仕組みでできているのか。だったら、システム化するだけじゃ、人件費は下がらんわなぁ」というのがメカニズムとして理解できるようになります。

ここでいうメカニズムに大きく関連してくる、人間に備わった機能が 恒常性維持期機能。ホメオスタシスという機能です。

リンクを張ったWikipediaの内容にもあるように、一般的にホメオスタシスとは、生体を恒常的に維持する機能。分かりやすく言うと、人間の体温が約37度に保たれているのは、このホメオスタシスによる恩恵です。

そして面白いのが、機能脳科学者の苫米地博士によると、このホメオスタシスは、物理空間だけではなく、情報空間にまで作用するということです。

これはどういう事かというと、例えばある人が、昨日はものすごく社交的な性格だったのに、今日になると一転、内向的な性格になり、あさってになったらものすごく凶暴に性格になってしまう・・・なんてことはないですよね?

性格は、人間が内相的に「自分はこういう人間だ」という無意識レベルの定義付け。もう少し本質的な表現をすると、「自分は社会に対してこういったリアクション・態度を示しておけば生命を維持するのに都合が良い」という無意識レベルの情報から成り立っていると考えられます。

そしてこの無意識レベルで保持している情報空間にも、ホメオスタシスが働いているというのです。

なるほど。
なので、人間は一定の価値基準や思考パターン、そして性格などを保持することができるのですね。

っと言うことは、単純に物理的な生体を維持するのと同時に、自分の脳の中にある情報に対しても恒常的に維持しようとする機能が働いているわけです。

脳の中にある情報は、自分の生命を維持するのに必要な情報が膨大に蓄積されており、その必要・不必要の切り分けを海馬という組織が担当しています。この海馬によって「必要だ」と判断された情報は、長期記憶として人間の脳の中に記憶され、「必要なし」と判断されたものは、忘却の彼方に消え去っていきます。

そして、長期記憶として記録さえた情報は、ホメオスタシスによって恒常的に維持される仕組みになっているということです。

しかし、こう書くと、至極当たり前ですね。

重要だと思って記憶したことが、簡単に書き換えられてしまったら、重要だと判断した前提条件が崩れてしまうわけで、そうなったら重要かそうでないかを判断すること自体に意味が無くなってしまいます。

ただ、この「情報を恒常的に維持する機能」が、極めて強力であるがために、しばしば「変化する」ということに対して消極的な生体フィードバックが強力に働くという側面が有るということを理解しておかなくてはいけません。

ここまで書くと、なぜシステム化だけでは人件費が下がらないか、労働時間が減らないかがなんとなく分かると思います。

システム化は、大なり小なり、現状否定の側面がありまる。

時には、これまで良しをされていた情報、価値基準をひん曲げて、今日からコッチのほうが正しい情報、価値基準ですという変化を伴います。

もちろん、この変化は仕事が楽になったり、早くなったり、正確になったりで、みんなが幸せになる好ましい変化なので、良くできたシステムというのは本当に歓迎されます。

しかし、楽になった、早くなった、正確になった、みんなハッピーになったのですが、システム導入の条件であった「人件費・労働時間の削減」が本当の意味で達成されているのでしょうか?

よく新聞や雑誌などに「◯◯社が、◯◯システムの導入により、◯◯時間を削減!」なんて出ていますが、その時間削減によってもたらされた削減費用の部分が、決算書、P/Lにリニアに反映されているのでしょうか?

恐らく、それはほぼ100%といっていいぐらい無いと思います。

でもシステム導入効果を説明するときの稟議書やシステム屋からの提案書には、そういう効果があるということを示唆するような表現が含まれているわけです。

では、なぜITによる業務効率化によってもたらされた恩恵が、決算書には結びついていかないのか。

ここにホメオスタシスからのフィードバックが関係してきます。

全ての人間にホメオスタシスが備わっていることを考えると、ほとんどの人は、いくら仕事が効率化されても、昨日までの非効率な仕事のやり方を無意識のレベルで保とうとします。

もちろん、これにはいろんな難癖を付けて「システムを使わない」という分かりやすい抵抗も有るのですが、それ以上に厄介なのが、削減された時間を埋め合わせするために、別の新しい仕事を作ってしまうことで、トータル的な労働時間は相変わらず減らないという事象が極めて多いこと。

これは自分のお客様の経営層の方がおっしゃられていたことなのですが、「いくら業務を効率化するためにシステム投資をしても、直ぐに別の仕事をつくる。結局トータルの労働時間は減らない。だからシステム化投資をしても効果がでない。」とおっしゃられていたのを聞いて、はっと気がついたことです。

確かに、プロジェクトをキックオフするまでの企画段階では、机上の計算とはいえ、確実に業務は効率化され、人件費は減るはずなのです。そして確かに削減のターゲットとなった業務は効率化され、それそのものの生産性は上がっているのです。

しかし、そこで減った時間を別の仕事、しかもそれが付加価値を生む仕事であれば、経営者も歓迎すると思うのですが、経営層から見ると、さほど意味もない仕事を一生懸命やっている・・・

なぜこういった事象が発生するのかも、恐らくホメオスタシスからのフィードバックである可能性が極めて高いと推測されます。

永久雇用を前提としないスタッフさんが従事している仕事の効率化であれば、効率化された結果、余剰の発生した契約を解除すれば、確実にその分の人件費は削減されます。

こういった部分は、決算書にリニアに反映されるでしょう。

しかし、法的に簡単に解雇することができない永久雇用を前提としたスタッフさんを対象とした人件費の削減を実施する際には、こういった人間の仕組み・機能をよく理解した上で、システム化+αの対策を講じておかないと、その目標を達成するのは極めて困難なのです。

よって、システム化だけで人件費を削減しようとしても、かなり高い確率で失敗するという仮説を立てることが可能であり、その仮説はこれまでの多くの失敗プロジェクトにより強くサポートされる仮説だと考えられます。

個人の減量プロジェクトに置いて、ホメオスタシスからのフィードバックによる現状維持作用が強く働くことで、目標の達成が極めて難しいことと同じく、企業レベルにおける減量も、全く同じくそこで働く人々のホメオスタシスが強烈に作用していることで、極めて困難なのです。

さらに、ホメオスタシスからのフィードバックは、良い・悪いとか、そういったレベルではないという事を理解しておかなければなりません。

確かに変化に柔軟な性格の人と、そうではい人がいます。
そしてしばしば、変化に対してネガティブな人のことを、抵抗勢力なんて呼ぶこともあります。

しかし、この抵抗勢力と呼ばれる人の反応も、生体を維持する機能から派生したリアクションであることをよくよく理解しておかないと、「なんであの人は・・・」なんて事になり、最悪のケースとしてはチームの崩壊という憂き目に合います。

また、ホメオスタシスというレベルからみると、変化に柔軟な人も、そうでない人も、結局は過去の経験から「変化したほうがより良い選択」なのか「変化しないほうがより良い選択」なのかの選択基準が異なっているだけで、その選択基準はホメオスタシスからのフィードバックであることが言えると思います。

つまり、眼に見える行動や表現が異なるだけで、その根っこにある仕組みそのものはみんな同じということです。

だから、変化に柔軟な人=良い人、変化できないひと=悪い人では無いのです。
だって、体温を一定に保っている人=悪い人ではないですよね?

このことは、人をマネジメントする層にいる人は、特に良く理解しておいたほうが良いと思います。このことを理解しておくと、いろんな意味で人に優しくなれます。


さて、そうは言いながらも、やはり時には変化をしないと生命の維持すら危ぶまれることがあるのも事実です。

ダーウインは、「生き残る種族は、強いものでも賢いものでもなく、変化できるものである。」という言葉を残しているそうです。

やはり、常に変化を嫌い、現状を維持するだけでは生き残ることはできません。

しかし、変化する事に対して、強烈に抵抗するホメオスタシスは全ての人間に備わっているので、この機能をコントロールする策をしっかりと持っていくことが、生き残りの鍵、プロジェクトでいうと成功と失敗を決定づける大きな要因になりそうです。

では、このホメオスタシスからのフィードバックに対して、人間は完全に無力なのでしょうか?常にホメオスタシスからのフィードバックに踊らされるだけなのでしょうか?


いえいえ。
そんなことはありません。
例えば個人でもダイエットに成功している人はたくさんいますから。

これにはいろんな成功要因があると思いますが、普遍的事実として、ダイエットに成功した人というのは、ホメオスタシスのマネジメントが上手にできた人という事になります。

っと言うことは、ホメオスタシスをマネジメントする方法は存在するのです。

そして、このホメオスタシスをマネジメントする技術を身につければ、様々な変化を伴う行動やプロジェクトをスムーズにこなすことができるという事になります。

それでは、今回はここまでにして、次回はこのホメオスタシスのマネジメントについて書きたいと思います。


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株式会社ライジングサン・システムコンサルティング
岩佐和紀 URL : http://www.risingsun-system.biz/
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 上級システムアドミニストレータ
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